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東京高等裁判所 昭和32年(ツ)7号 判決 1957年3月29日

上告人 被告・控訴人 米川操

被上告人 原告・被控訴人 株式会社茨城相互銀行

主文

本件上告を棄却する。

上告費用を上告人の負担とする。

理由

上告人は「原判決を破毀する」との裁判を求め、その理由として、別紙記載のとおり主張した。

別紙上告状記載の理由及び上告理由書一記載の理由について、

上告人の主張の要旨は、上告人は無尽契約によつて被上告人から金四萬円の給付を受けたのに、被上告人に毎月金一千四百円宛、総計金五萬四千六百円を返済することを被上告人と約し、被上告人は本訴で右契約に基いて上告人に対し請求をなしているが、交付を受けた金額と返済する金額との差額金一萬四千六百円は利息に当り、それは利息制限法所定の利息を超過した無効なものであるから、その請求を認容した原判決は違法であるというのである。原審の適法に確定した事実によれば、被上告人が講元となつていた一口金一萬円の無尽四口に加入した上告人は、第一回に当せんしたので四口合計金四萬円の交付を受け、被上告人に対し、第一回の掛金は支払済であつたので、それを控除した金額、即ち上告人主張の金五萬四千六百円の返済を約したのである。無尽契約においての講員と講元との関係をみるに、上告人のように第一回に当せんして金員の交付を受けた場合には、その後の掛金は、一面弁済のような性質をもつから、消費貸借のような形を示しているが、最終回に金員の交付を受ける講員との関係をみれば、その会員は毎回既に掛金を支払つていたのであるから、講元から受取る講金はむしろ支払つた掛金の返済を受ける関係にあると認めることもできないではない。右のような講元と講員との間の掛金の支払と講金の受領との関係には、一面消費貸借的の面の存することは否定できないが、その関係を全面的統一的にみれば、消費貸借の規定のみによつて規律されていると解するのは妥当ではなく、むしろ、講契約に基く独自なものと解するを相当とする。本件のような営業無尽で講員の掛金額と講金の受領額との間に差額は存するが、右差額は、講員において掛金の払込をなさない者がある場合には、講元はそれを理由にして、他の講員に対し講金の支払を拒むことはできず、必ず支払わなければならないのであるから、その資金その他講を運営する費用に充当されるのであるから、それを消費貸借の利息に該当するとはとうてい認めることができない。しかも、営業無尽においては、講員の掛金と講金との間の関係についても、その差額が不当に大きくならないように、国家が原判決の示すように、無尽業法第三条、同施行細則第二条、相互銀行法第三条、同施行規則第三条等によつて法的規整をなしているのである。以上説明のような関係にあるのであるから、右差額を消費貸借の利息と解するは適当でないし、それについては利息制限法を適用する余地はないと解するのを相当とする。

よつて、上告人の利息制限法の適用ありとの抗弁を排斥した原判決の判示は相当で、上告人の主張は独自の立場に立つて、原判決を非難するに過ぎないから、理由がない。

上告理由書二記載の上告理由について、

本件記録によれば、上告人が調停の申立をなしたのは水戸簡易裁判所に別件としてなされ、しかも、同裁判所が昭和三十一年二月九日に不調として処理し、同年五月二十九日原裁判所にその旨の通知がなされたことを認めることができる(記録七八丁の水戸簡易裁判所からの通知参照)。よつて、原裁判所が上告人の調停について考慮しないで、本件について審理をなして判決を言渡したことについてはなんの違法もない。

従つて、本件上告は理由がないから、民事訴訟法第四〇一条によつて本件上告を棄却し、上告審での訴訟費用の負担について同法第九五条、第八九条を適用し、主文のように判決する。

(裁判長判事 柳川昌勝 判事 村松俊夫 判事 中村匡三)

上告状記載の理由

一、上告人米川操は控訴審に於ては病気精養出張不在中にて本案の争は出来なかつたが、第一審中に於て上告人に対し融資金額に付き制限外の利息を加算して支払を為せとの被上告人の主張なるも、本件の契約は上告人の承諾せざる勝手なる請求額であるから、上告人は可様なる違法なる請求には応じられない。依て右の請求額は瑕疵ある被上告人の主張は之を否認する。

二、被上告人の一、二審共主張は違法なる請求であるから被上告人のすべての陳述は理由の存せざるに依り控訴判決を取消し、然して上告人米川操に給付したる金四萬円に対し毎月金壱千四百円宛総掛金五萬四千六百円也の金額を支払うべき事としたのは利息制限法に反する違法なる請求であるから被上告人の請求及主張は相立たず依て否認する。

三、被上告人は無尽会社で組織が違うから一般の消費貸借契約とは趣きを異にすると主張するも金を融資して之に利子を附して返済を受くる事は取りも直さず消費貸借契約である事は論をまたない。それであるから之に対する手数料及制限外の利息を附して請求する事には同意は出来ない。依て本件は民訴法三九四条に該当し法令に違反するものであるから上告の理由となることは言をまたない。被上告人の本訴請求及主張は正当であることを認容するというが、然し上告人が一、二、三項に於ける主張は正当であると思料されるので本件控訴は当然棄却すべきである。

四、被上告人の主張は一、二審共誤りで又其の陳述に於ても瑕疵ある理由の存せざるものであるから控訴判決を破棄し、上告人の上告は正当の根拠ある主張であるから公明なる御審理の上判決を求むる為茲に陳述に及びたる次第である。

上告理由

一、上告人米川操に給付したる金四萬円也に対し毎月壱千四百円宛総掛金五萬四千六百円を支払すべきこととしたのは利息制限法に反する違法なる約定であるから被上告人の請求主張は之を理由なきものとして否認する。

二、上告人は本件を誠意を以て解決する予定にて金銭債務調停申立を御庁に対し提出したるも如何に処理されたるか上告人には何等の通知がなかつた。然うして右の申立に対し何等決定の通知がなかつた。

右の理由は判決が法令に反したるものであるから当然控訴は破棄し本件を適法なる上告であるにより再審理を受け度、上告理由書を提出致します。

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